Meister interview vol.25 〜 Legame 小林青花さん〜
2022年01月14日
革靴、皮革製品、靴磨きやファッションなどに精通しているプロフェッショナルな方々を、
M.MOWBRAY認定のシューケアマイスターがインタビュー。
お仕事の内容、こだわりや人となりについてご紹介する企画です。
今回は、イタリア・フィレンツェで学んだ技法を活かし、
現在は東京で革細工のブランド「Legame」(レガーメ)を運営している、
小林 青花(こばやし はるか)さんにお話を伺いました。
Legame|小林青花
東京生まれ。
大学卒業後の2008年、イタリアへ長期留学した際に出会い、その作品に衝撃を受けた、フィレンツェの革細工工房「IL BUSSETTO」(イル・ブッセット、現「Giuseppe Fanara 1989」)にて見習い修行を開始。
その後、2014年に自身のブランド「Legame」のデザイン、製作を東京にて開始。
実店舗は持たず、オンラインショップでのみ商品の販売を行っていたが、その技術、繊細な仕上がりや扱う素材の珍しさが評価され、百貨店を中心にさまざまなイベントのオファーが集まるように。
|イタリア、フィレンツェへの留学
版画家である父、芸術に明るい母の影響もあり、美術やものづくりは、幼少期から非常に身近な存在でした。
もともと西洋美術が好きだったので、半ば憧れやイメージ先行で「美術といえばイタリアだろう」と留学を決めました。
今考えると、10代ならではの安直な思い込みだなと思います(笑)
「大学を卒業したらイタリアへ行こう」と決めて、
大学でイタリア史と美術史、そして夜間の語学学校でイタリア語を学びました。
そして、在学中の短期留学の後、2008年に長期の留学を開始しました。
何になるか、どの道に進むか、みたいなことは現地に行ってから決めるつもりでしたが、
「手に職をつけたい」というのは、最初から私の中でハッキリしていたんです。
|革細工の道に進む、師匠との出会い
革細工の道に進むことを決めたのは、イタリア留学に行った際、現在の師匠である「Giuseppe Fanara」(ジュゼッペ ファナーラ)と出会ったときですね。
「何を扱う職人になるか」を決めるため、市が開催している工房見学ツアーなどに参加していたのですが、
「お手伝いしてくれる人を探している」と、靴職人の知り合いが紹介してくれたのが師匠の工房だったんです。
|感じた衝撃、師匠の存在
当時、革に関してはまったくの素人でしたが、
彼(=師匠)の創り出すものを見たとき、その繊細な美しさに衝撃を受けました。
それまで持っていた革製品の概念が覆されたのを覚えています。
そこからトントン拍子で話が進み、初めて会いに行った翌日から工房に行き始めました。
日々作業を手伝いながら、すこしずつ完成に近づいていく工程の複雑さと面白さ、
それに加えて、工房の居心地の良さから、自分もこの仕事を続けたいと思うようになって。
本格的に修行の期間に入り、職人としてのキャリアがスタートしました。
師匠は、言うまでもなく職人として立派なのはもちろん、人としても本当に温かい人なんです。
技術面でもたくさんのことを教わりましたし、
単身イタリアに移った私が、文化の違いを含むさまざまな壁にぶつかったときも、
家族のように優しく接して、支えてくれました。
仕事の面でも、生活の面でも、彼の存在は私にとって非常に大きかったと思います。
|修行を続ける中での葛藤、そして独立
2008年に修行をはじめて以来、日本とイタリアを行き来しながら、師匠の工房で修行をしていました。
そして、修行開始から6年後の2014年に独立し、自身のブランドである「Legame」(レガーメ)を立ち上げたんです。
一定のレベルの成型技術を身につけることはできましたが、そこで新たな壁にぶつかりました。
自身の作品におけるアイデンティティを見つけられずにいたんですよね。
歴史ある技法を受け継ぐだけあって、師匠は高いレベルの作品を作ります。
この技法自体に「縫製をせずに成型する」という独自性がある分、「私ならではのオリジナリティを出さなければならないのではないか、自分だけの個性はどこなんだろう」と悩んでいました。
そんなとき、同業の職人の方々から ” 色使い ” に関してのある言葉をいただき、その悩みが解消されたんです。
他の方々から話を聞くまで、自分では正直ピンと来ていなかったのですが、
染色の風合い、柄の入れ方など「師匠とは異なる、女性らしい繊細さがある」という言葉をいただけてて。
そう言ってもらえたとき、すごくホッとしたのを覚えています。
|一人でブランド運営をする難しさ、やりがい
はじめは師匠から受け継いだいくつかの道具以外は何もなく、素材、その他に必要な道具、機材などもゼロから揃えました。
また、商品の企画、材料の準備、製作、商品撮影、サイトの運営やイベントの打ち合わせなど、ブランドに関わる業務は2014年の開始以来、私だけで行っています。
「すべてを一人でやっている」というのは聞こえが良いかもしれませんが、
現実的に手が回らないこともあり、取捨選択を迫られることも多いと思います。
それでも、「自分がたった一人で作ったもので誰かが喜んでくれる」というのは、何年経っても純粋にうれしさを感じます。本来ならこちらが御礼を言う側なのに、逆に温かい言葉をいただくことが多く、そんな瞬間にすべてが報われますね。
|フィレンツェの伝統技法ならではの魅力
私が学んだ技法の最大の特長は ” 木型 ” のみを使って革を形作り、一切の縫製を行わないこと。
ステッチ(縫い目)がまったくないので、染めによる色のムラ感、使い込んだときの手触りなど、革の質感を最大限に愉しんでいただけます。
また、つるんとした形に仕上がるので、いい意味で革の持つ無骨さが抜けるんです。
曲線がきれいに出るので、女性も手に取りやすいと思います。
|「Legame」にできた、新たなアイデンティティ
ガルーシャ(=エイの革)も、ブランドとして欠かせない存在のひとつです。
元々は「BAHARI」(バハリ)さんという、ガルーシャを専門で扱っているブランドの方から勧められたのがきっかけでした。
エイ革は、素材が普段使っている革よりも硬いため、曲げたり成型したりするのが難しく、初めて挑戦したときは、見事に失敗しました(笑)
さまざまな方にアドバイスをいただきながら、試作や研究を重ねて今の方法にたどり着き、お客様に提供できるようになりましたが、今でも扱いには苦労しています。
また、技術的にできないわけではありませんが、師匠はこの素材で革細工を行いません。
手仕事で同じ素材を用いて、革小物を作っているブランドもなかなかないと思います。
だからこそ、ガルーシャは「Legame」におけるもうひとつのアイデンティティとして、重要な存在なんです。
|職人として大切にしていること
ありきたりですが ” 初心を忘れない ” ということを大切にしています。
イタリアから帰ってきて、ゼロから製作を始めた当時の勢いと情熱は、ずっと忘れてはいけないなと。
そのため、「Legame」の作品には、目立たない位置ではありますが、
「Legame con Giuseppe Fanara(レガーメ コン ジュゼッペファナーラ)」という刻印を押し、仕上げています。
これは独り立ちするにあたり、イタリアで師匠と作った刻印です。
「Legame」は「絆」や「つながり」を意味するイタリア語で、師匠の直筆を元に、
「工房や師匠ジュゼッペとのご縁から生まれた Legameの作品たち」(con=英語におけるwith)という意味を込めたんです。
1つの作品を作るのには、だいたい2週間~1ヶ月という長い時間がかかるのですが、
最後に刻印を入れるときに、いつも初心に戻れるんです。
|職人として目指す場所
「ブランドを大きくして、商品を大量に作りたい」みたいなことって、あんまり考えていなくて。
「職人として腕を磨きながら、モノづくりを長く続けたい」というのが、気持ちとしては一番です。
ただ、どこかで気持ちが変わって、他の道に進むことだって、
なにかの出来事がきっかけとなってこの仕事から離れることだって、可能性としては考えられます。
そうなると、ひとつのことを長く続けるって、実は一番難しいのかなとも思うんです。
だから今は、難しい要望に答えられるようになったり、新しい商品の企画をひとつずつ形にしたりして、
一歩一歩、自分のペースで ” 職人としてのできる ” を広げながら、この仕事をできるだけ長く続けていきたいですね。
インタビュー内容は以上です。
今回の取材には「FANS.新橋」で行われたPOP UPイベントの合間、ご多忙の中でご協力いただきました。
慣れた手付きで緻密な作業を進めながら、気さくに受け答えまでしてくださった小林さん。
これだけ魅力と思いの詰まった作品が生活の中にあると、日常も明るくなってくれるような気がしませんか?
「小林さんの作業風景を見に行きたい」
「Legameのアイテムを手にとってみたい」
という方は、下記より次回の出展情報をご覧いただけますよ。
実際に見る小林さんの作品には、写真だけでは伝わらない魅力を感じていただけるはずです。
次回のインタビューもお楽しみに。
Legame
・公式HP:https://legame.mystrikingly.com/
・Instagram:@legame_h
・Facebook:@legame.h
Legame|丸善イタリア展
・開催期間:1月19日(水)〜25日(火)
・会場丸善丸の内本店 4階
・ご予約、その他詳細はこちら
※小林さんには、撮影時のみマスクを外していただいております
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