Meister interview vol.24 〜 靴磨き職人 榎本貴志さん〜
2022年01月07日
革靴、皮革製品、靴磨きやファッションなどに精通しているプロフェッショナルな方々を、
M.MOWBRAY認定のシューケアマイスターがインタビュー。
お仕事の内容、こだわりや人となりについてご紹介する企画です。
今回は兵庫県神戸市にある立ち飲み屋「Bel-Ami」(べらみ)を拠点として、
靴磨きサービスの提供やレザーグッズ全般のリペアを行っているという、榎本貴志さんにお話を伺いました。
靴磨き職人|榎本貴志
1993年生まれ。
自身が20歳のときに出会った一足をきっかけに、靴磨きの道を志す。
現在は靴磨きに加え、革小物や革製品の補修、染め替えや染め直しなど、
高い専門性が求められる技術を独学で習得。
繊細な色の濃淡を生かした仕上がりが高く評価され、
拠点として活動している兵庫県神戸市の内外を問わず、多数の依頼が集まる人気の職人。
|職人の道を志したきっかけ
お恥ずかしい話ですが、元々靴はそこまで大切にする習慣もなく、
「履き潰したら新しいものを買う、また履きつぶす」ような感覚でした。
それが、成人のタイミングで買いに行った靴がきっかけで、意識が変わったんです。
当時の自分にはハードルの高い値段で、緊張しながら買ったのを覚えています(笑)
|せっかく買ったからには…
頑張って良い靴を手に入れたんですが、肝心のお手入れに関しては本当になにも分からなくて。
それでも「奮発して買ったからには大切にしたい」と思い、
靴にトラブルが起きたときは、すぐに買ったお店へ相談しに行ってましたね。
お店の方もすごく親切に対応してくださって、
教えてもらったやり方通りに手を動かすと、靴が綺麗になっていきました。
自らの手を動かすことによって、スレ傷が目立たなくなったり、
雨ジミが目立たなくったりするのを見ているうちに、「靴磨き」にどんどんハマっていきました。
|職人としての駆け出し
本格的に靴磨きにハマってからは、自分でもネットで検索して調べて、それを見様見真似で実践していました。
当時は、すでに社会人としてアニメーション関係の仕事をしていましたが、
靴磨きの基本を覚えたあとは、その仕事を辞め、職人として独立して依頼を受けるようにしました。
身近な友人からの依頼だったり、飲食店や洋服屋さんの一角を間借りしたりすることで、
いろいろな場所でたくさんの方にお会いして、靴を磨かせていただき、経験を積みました。
一度も受けたことのない種類のアイテムも多々あって、そういったときは特に緊張したのを覚えています。
|コツを掴むのが難しい ” パティーヌ ”
いろいろな革製品に出会う中で試行錯誤を繰り返しましたし、それは今も変わりありません。
ですが、「パティーヌ」においては特に頭を抱えてきました。
絵画のように ” 色の濃淡 ” をつける必要があることに加え、
扱う靴や皮革によってもアプローチや仕上がりが異なることから、
手先の感覚頼みな作業になり、コツを掴むのが非常に難しくて。
最初は本当に失敗の連続でしたね。
|前職の経験が活きた瞬間、感じたギャップ
先程もお伝えした通り、前職がアニメーション関係だったこともあり、
染め替えや染め直しにも求められる「カラーコーディネート」の技術は、かなり役立ったと感じます。
ただし、パソコンの画面上で色を塗るのと、皮革に色を乗せるとでは勝手が違うので、
その部分のギャップにも最初は苦戦しました。
皮革には染料を入れた後も、油分を仕上げに入れたり、ツヤ出しを行ったりするので、
目に見える色味には微妙な変化が起こるんですよね。
そのため、色の濃度を慣れで見極めて、計算に入れた上で仕上げなければなりません。
作業を繰り返すうち、慣れたのに加えて、いい意味で肩の力が抜けたこともあり、
だんだんと深みある濃淡が出せるようになったかなと思います。
榎本さんが作業したアイテムの一例。
長年使われているということもあって、状態の回復はもちろん、
見栄えも一新して気持ちよく使ってもらえるよう、染め替えを行ったという。
|一瞬たりとも気の抜けない、緊張感のある作業
色の濃淡は繊細で、わずかな作業でも色の印象に影響が出やすいことが多いです。
そのため、染色が終わった後の仕上げ作業にも気は抜けません。
最後の最後まで気は抜けないので、緊張感を持って作業をしています。
色の濃淡に変化を起こしづらい「リッチデリケートクリーム」は、
そういうときでも安心して使えるので重宝しています。
塗ったときに色が落ちたり、過度に色が濃くなったり、シミを作ったりせず、
繊細な染めを施した革にもしっかり浸透してくれるので、使いやすいんですよね。
|繊細な作業を続ける中で心がけていること
染め替えや鏡面磨きなど、最近は繊細な作業のご依頼をいただくことが多くなってきたため、
オンオフをしっかり線引きして、休みの日は仕事のスイッチを切ってるんです。
言語化の難しい色の濃淡づけ、それを再現する際の微妙な力加減。
自分で言うのはおこがましいのかもしれませんが、
作業をしているときは、なにかと神経を張り詰めたり、尖らせたりしています。
それをずっと続けていると、どうしても思考が疲労してしまうんですよね。
そんな状態だと、やっぱり作業で良い仕上がりを保つのが難しくなってしまう。
だから、お客様にお喜びいただけるようなクオリティを維持するためにも、適度に休むことを心がけています。
|職人を続ける中で感じたこと
これまでもずっとお話してきたとおり、仕事柄、本格的な革靴をお預かりする割合が多いです。
しかし、コロナ前に比べると革靴の依頼自体は減っているのが現状で。
一方で、スニーカーに関しては履いている方も増えてますし、
それに応じて「スニーカーを綺麗にしたい」という依頼も多くなりました。
そんな中で思うのは「革靴のかっこよさも、もっと感じてもらえたら」ということです。
革の質感、縫い目や底付けの技法など、
革靴には見て触れるだけでも、愉しめる部分がたくさんあります。
履く機会がすくなくなった革靴でも、
まずは手にとって眺めるだけでも良いので、改めてかっこよさを感じてほしいですし、
私自身も職人としての活動を通じてそれを後押しできたら嬉しいですね。
インタビュー内容は以上です。
今回、榎本さんにはリモートでのインタビューにご協力いただきました。
9時間ノンストップで靴を磨き続けた経験もあるという榎本さんが話す内容には、
並々ならぬ革靴、靴磨きへの情熱を感じました。
そんな榎本さんに「靴磨き、染め替えや染め直しを依頼したい」という方は、下記より詳細をご覧ください。
遠方からのご依頼も、郵送にて受付が可能とのことですよ。
次回のインタビューもお楽しみに。
Bel-Ami(べらみ)| 店舗情報
〒651-0096
兵庫県神戸市中央区雲井通3丁目4-8
・TEL:0869-93-4664
・営業時間:月~土|16:00~21:00
(※店頭靴磨きサービスは毎週 金・土|16:00~21:00)
・Instagram:@emts1021
・Facebook:@caremottey
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