vol.33 〜クツビガク 木嶋友和さん〜
革靴、皮革製品、靴磨きやファッションなどに精通しているプロフェッショナルな方々を、M.MOWBRAY認定のシューケアマイスターがインタビュー。
お仕事の内容、こだわりや人となりについてご紹介する企画です。
インタビューにご協力してくださったのは、靴磨き専門店【クツビガク】の経営をされ、
サウナ通としても知られる木嶋友和さん。
クツビガク|木嶋友和
群馬県 前橋市で靴磨き専門店 クツビガクを開業。
その活躍は靴磨きだけにとどまらず、サウナ、釣り、地域のグルメネタなど
様々な分野で造詣が深い。
好きな靴はオールデン。愛車はジムニー。
|「靴磨きという職業」
靴磨きという仕事の一番のやりがいは「世の中の革を救っているという実感」を得られるですね。
手入れをしない革は(特に靴は)刻一刻と寿命が近づくのに対し、適切に水分や油分を与える事によって延命措置が出来て、尚且つその事をお客様が喜んでくださる。
こんなに嬉しい事は無いと思っています。
また、靴好きは孤独(周囲で共有出来る人がなかなか居ないので)だと思いますが、そんな方々が私の店で少しずつ繋がったり、その場磨きで何も気にせず思いっきり革靴や靴磨きについて熱く語れる環境は、かつて自分が切望していた事でもあり、お客様にもお喜びいただけるので店を出して良かったと心から思う瞬間でもあります。
|靴磨きで独立する難しさ
何の下積みもせずにいきなり開業した為、オープンして数週間したところでお客様がパッタリ来なくなった時は本当に焦りました。
焦りというか、うっすら死を感じました。
ただ、常に人の選択は「これからどうするか」しか無いので、まずは少しでも知ってもらう為にSNSに時間を割いたり、自分の足で営業をしに回ったりしました。
また、物販に関しても仕入れルートやパッケージ、オンラインでの販売方法等も何も知らずに始めたので全てが手探りで不安でしたが、そんな毎日が刺激的でもありました。
オープン当初からイベントはよく企画していた記憶がありますが、お客様が喜んでくれる事は何だろう、お客様がうちの店に来たいと思ってくれる事は何だろうと考えると、自然と色々なアイディアが浮かんできました。
いつもサウナに行くと、水風呂に入りその後外気浴をしているとそんな事ばかり考え、着替えて出た頃にはiPhoneのメモ帳にびっしりと企画内容が詰まっている、そんな毎日を過ごしていました。
|24時間 靴磨き
2月と8月は「ニッパチ」と言われるほど小売業やアパレルでは売り上げが落ちる月として知られていますが、靴磨きも御多分に洩れずそれに当てはまると思います。
そんな事情も知らない開業2ヶ月後の8月、瀕死状態で何かしなきゃと焦りながら24時間営業を試みました。何と言ってもこのイベントにかかった費用は24時間TVのパロディ的なTシャツの作成費のみ。
あとは己の時間と体力を使えば誰でも出来る企画です。これをやった事で一気に顧客数が増え、SNS上のPV数も増え、フォロワー数も増えました。
多大なるリクエストで今年もやりましたが、もう金輪際やるつもりはございませんので、皆様にはご理解とご協力をお願いしたいです。35過ぎて夜更かしするものじゃないなと痛感しましたね。
|ストレスを溜め込まないコントロール術
実は、食生活にはかなり気を使っています。
具体的には食べ過ぎない事です。
朝→食べない
お昼→サラダ、鶏肉、豆腐、めかぶ、魚、ナッツ、ゆで卵(低糖質高タンパク)
夜→好き勝手食べる
という食生活です。
日中食べ過ぎたり、糖質や脂質を取ると眠くなったり体がダルくなったりして、生産性が落ちると感じています。
逆に夜は仕事のチャンスになり得るコミュニケーションの場になる事も多く、そこは気にせず楽しく過ごせるように調整しています。
あとはサウナで自律神経を安定させ、免疫力も高める事で体調不良になりづらく、ストレスも溜め込ま
ない体にしています。
モットーや座右の銘という面で言えば、上でも書きました「これからどうするか」をどんな状況でも考えています。過去に戻る事は出来ないし未来をコントロールする事も出来ないので、今この瞬間自分はどうするべきかという事を考えています。自責思考で、全ての原因は自分にあると捉える事で、どんな事も改善に繋げられると思っています。
あとはお客様への感謝を毎日する事で、自分自身が常に幸福感を感じられて後悔の無い日々を過ごせていると思います。
|クツビガクの美学
何でも勿体無いと考える方なので、最後まできちんと使い切る事と、すぐに捨てたりしない事ですかね。
例えば洗顔フォームや歯磨き粉。もう出ないかな、というところで蓋を閉めて遠心力で振れば意外とまだ出てきたりします。本当に限界を迎えたところでハサミでチューブの部分をカットすれば、そこから更に4~5回は使えます(笑)
靴のクリームやワックスも同じです。もう終わりだな、とすぐに捨てるのではなく、作ってくれた人の事を考えて、最後の最後まできっちり使ってから捨てるように心がけています。ただのケチではないのです。
|仕事とサウナ
ご存知、サウナですね。
無になるも良し、仕事の悩みを前向きに解決するも良し、もうサウナ無しに仕事は出来ません。
他の趣味は渓流釣りもやります。群馬県の山岳の方は景色も綺麗ですし、天然のイワナやヤマメは狩猟本能を掻き立てられると言いますか、楽しいとかの次元を超えて無我夢中で川の中を歩く感じです。ただ、釣りは釣れなかった時は判断を誤った自分に腹が立ち、逆にストレスが溜まる時もあるので最近は本当に釣れそうな時だけ行くようにしています(笑)よく色々な方から釣りに連れていってとお願いされるのですが、危険過ぎるのでお断りしております(笑)
|何だかんだオールデンが好き
好きな靴のブランドはオールデンですね。
同じホーウィン社のコードバンを使った靴は他にも沢山ありますし、造りも雑で個体差も激しいですが、なんかオールデンが良いんですよね。あの独特なドシっとしたフォルムと、ダイナミックに入る履き皺がたまりませんね。
|出会ってしまった1足
当時はまだサラリーマンで、ネットの画像でオールデンを見た時に衝撃が走りました。
なんだこの皺と艶は…と。
そこからとにかくお金を貯めてプレーントゥのバーガンディーを買いました。
それからと言うものオールデンについて調べ漁っていたところレアカラーなるものを知りました。
中でも一際惹かれたのがウィスキーコードバンでした。それも買いたくても買えない、正しくレアな物だと分かり余計に喉から手が出るほど欲しくなりました。
たまにインスタグラムで見かけるウィスキーコードバンは、もう羨ましくて仕方が無かったです。
よっぽど持ち主にDMをして、どこで買えますか?と聞きたかったですが、いかんいかんと我に帰る毎日でした。
そんな中、とあるブロガーさんのLINE@に登録をしていたらポンっと通知が来て、アメリカ在住の友人がウィスキーコードバンのチャッカブーツを新品で販売してくれるそうですという情報が届きました。
オールデンのチャッカブーツ自体、欲しいなと思ってもいたので迷わず返信をして、銀行口座と睨めっこし、その月に契約してもらえそうな物件数と照らし合わせて即決しました。
恋焦がれていたウィスキーチャッカブーツは、今でも一番お気に入りの靴です。
|柔らかい雰囲気のあるデザイン
レザーグッズで好みなのはヘルツさんですかね。
私はどちらかと言うと男らしさ、みたいな要素より少しど真ん中を外したような雰囲気が好き
なので、ヘルツさんのどこか可愛らしい、柔らかい雰囲気のあるレザーグッズのデザインが好きです。
あと使っている革があまり仕上げ剤が載っていなくて、雨染みなんかもすぐできるくらいよく育つ、革本来の風合いが残っている点も好きです。
|革靴ファーストのファッション
シンプルで清潔感のあるものが好きです。
営業の頃から、個性を出す事よりも違和感を与えない事を重視していました。
あくまで主役はお客様なので、不快な想いをさせない事が第一歩かなと。臭いとか、汚いとか、胡散臭いとか(笑) 基本的に靴ファーストで考えるので、今日何が履きたいかというところからスタートして、その靴に合う装いは何だろうと考えています。
最近では低価格で良質な生地も使われて、革靴とも相性抜群なデザインのムーバーガーメンツのトラウザーズが好きですね。
良いなぁ~と思っていた矢先に取扱店としてお話をいただけたので、今後はトラウザーズだけでなくジャケットやシャツなんかも展開していけたらと考えています。
|おすすめのアイテムは?
M.MOWBRAY のテクニカルアドバイザーでもある斗谷さんが作られたモイストがお気に入りです。
この仕事を始めてから、結局のところ革を長持ちさせるには一体何が一番良いんだろうという私の疑問にスッと真正面から答えを出してくれたアイテムです。
ロウは入っていないので艶は出ませんが、革の繊維間に深く油分を届ける設計になっているので、時間が経つと硬化しがちな革を柔軟化してくれて、更に防カビ・消臭・抗菌までエビデンスを取得出来ているので心から安心して使えるアイテムです。
靴磨き屋としてお持ちいただいた靴が綺麗になるのはもちろん、やっぱり長持ちする磨きをしたいなというのは漠然と持っていました。斗谷さんと出会った事で、その辺りの疑問が具体的に解消されて、その事をお客様にも伝授する毎日です。まだまだ勉強中ですが。
ですので、靴磨きの根本部分ではしっかりと表面の汚れを落として加脂の妨げになるものは除去し、革の柔軟性という観点を大事にケアしています。
逆に過保護になり過ぎると油分過多なケースもありますので、その場合は逆に表面の油分を
取り除いたり艶出しをメインで行ったりしています。
自社で取り扱いのあるアイテムになってしまいますが、こちらも斗谷さんのブランドICHI JAPAN LEATHERからリリースされた「CURE ALL nano CLOTH」です。通称「ヤバい布」とも呼ばれ、その使い心地は拭けば一目瞭然です。
今までは革の乾拭きって綿100%だったら何でも一緒でしょ(鏡面以外)と思っていましたが、こんなに
も差が出るものなのかと衝撃でした。圧倒的な曇りの取れ方と、表面を荒らさない独特な質感は唯一無二です。
また、これは実現可能かまだ分かりませんが山羊毛ブラシをオリジナルで開発中です。うまくいけば商品化しますし、納得出来なければお蔵入りしますので、あまり期待せずにお待ちください(笑)
|これからの季節の革靴の保管についてアドバイスお願いします
まずシューツリーは脱いだ翌朝入れたり、翌日の日中に入れる事がほとんどです。
私はサウナに通う前から代謝が良い方で、足に汗もかいやすい体質なので、まずは粗方ライニングの湿気を逃し、それからシューツリーを入れるようにしています。
現在は自宅の玄関には靴が収まらない為店に置いていますが、とにかく湿気や空気が篭らないようにはしています。
箱に入れっぱなしだったり、開かずの下駄箱に仕舞いっぱなしだとこの時期はカビも生えてしまいますし。
でもそんな時はモールドクリーナーが有効ですね。まだ当店にも在庫がたっぷりございますので、カビが生える前にぜひお求めください(笑)