Meister interview vol.19 〜 万双 北山雅人さん〜
2021年07月26日
革靴、皮革製品、靴磨きやファッションなどに精通している
プロフェッショナルな方々を、M.MOWBRAYのシューケアマイスターがインタビュー。
お仕事の内容、こだわりや人となりについてご紹介していく企画です。
今回は vol.17の対談インタビューにて登場していただいた、
鞄・革小物ブランド「万双(まんそう)」の北山雅人さんに
こだわりや個人的に使用しているという万双のアイテム、お手入れについてお話を伺いました。
万双 北山雅人さん
革靴の販売員として多くの紳士靴ブランドを渡り歩きながら
国内外問わずさまざまな革靴、皮革素材を目にした経験を活かし、
現在も根強い人気を誇る国産革靴ブランドの立ち上げにも携わる。
その中で転職先の婦人鞄ブランドで、革靴とは異なる、鞄が持つ魅力に目覚める。
鞄・革小物のブランド「万双」に移った後は、上野の実店舗での接客にくわえ、
数々の紳士靴、鞄ブランドで培った皮革に対するノウハウを活かし、企画、生産管理などを担当。
創業から25年以上経った現在も、多くの革製品ファンから根強い人気を誇る、
「世界最高峰の品質を常識的な価格で提供する」というブランド独自のスタイルを支える。
|北山さんの思う「万双」というブランドについて
まず、紳士物の鞄を扱うような店構えではないなと…(笑)
アメ横の中にある一坪半の、
言ってしまえば露店商のような見た目のお店で、
高価格帯の革の鞄を売っているってギャップがすごく面白い会社だなと思います(笑)
|数々の革製品を目にしてきた中で感じる「万双」の製品特徴
商品の特徴でいうと、
「ありそうな商品なんだけど、どこか違和感がある」って部分があるのかなって。
鞄にしてもお財布にしても、カテゴリ自体は奇をてらったようなものはなくて。
なんですけど、ベースにはトラッドなものがありながら、「そのまんま」って感じでもないんですよね。
| ブランドの「世界最高峰の品質を常識的な価格で提供する」 について
長い間、革製品を扱わせて頂く中でできてきた、
自分なりの値段に関する肌感覚があるんです。
「この鞄なら大体いくら」「この靴ならこれくらい」というか。
ゆえに万双ではコストありきの商品企画、モノづくりはしてなくて。
僕以外のスタッフを含む、自分たちの肌感覚を信じて、
出来上がった商品の顔つきを見て値付けをするようにしてます。
だからこそ「適正価格」とお客様に言っていただけるのはすごく嬉しいです。
| 商品に対する反応の中で思うこと
正直、お客様には「安い」と言ってくださる方も多いんですけど、
我々は「ぜんぜん安くないんです」といつも思ってます。
うちら(=万双)が自分で「安い」って言い出したら、
それはおごりでしかないので。
5,6万円の鞄自体、
決して安いものではないですし、
自分たちの中での「価格の常識性」みたいなものは常に意識してます。
| お客様と触れ合うなかで感じるやりがい
やっぱりお客様が喜んでくださることが一番大きいというか。
25年以上前に革靴販売の職に就いて以来、
長いことお客様商売をしてますけど、
この仕事(=サービス業)って、
「ありがとう」って言ってもらえるじゃないですか。
物をご購入いただいた、
こちらが「ありがとうございます」なのに、
逆にそれをいただける。
これがこの仕事を続ける原動力というか、
僕はそれがすごく好きなんですよね。
| 商品企画、生産管理などモノづくりに関わる中でのやりがい
僕は職人さんじゃないので、
自分でデザインを引いたり、鞄を組み立てたりと、直接手を動かすわけじゃない分、
(自分で)できないことの方が多いんです。
その中でも人と交流を持って、やりとりを重ねる中で、
物事が出来上がっていくっていうのはうれしいんですよ。
自分じゃできないことをできる、色々な誰かと関わって、
ひとつのプロダクトが出来上がっていくというのは、やりがいも喜びも大きいです。
| 企画、製品を手掛けていく中での苦労
とにもかくにも、
うち(=万双)みたいなモノづくりのやり方は時間がかかってしまって。
革だったり、金具だったり、
こだわった商品をやっていこうと思うと、
企画からモノが形になるまでのペースというのはすごく遅くなってしまうんです。
だから、商品がひとつ出るたびに安心するというか。
企画して、頭を悩ませて、職人さんと形を作っていって…
という生みの苦しみを乗り越えられたときはホッとします。
これは、こういう苦しみとホッとする流れは続くんですが…(笑)
| 特に苦労した、印象深かった商品
どの商品にも思い入れはありますが、特にということであれば、
ブライドルレザーを使った「ダレスバッグ」になりますかね。
型紙を切って企画をしている段階では、
「これは本当に形になるんだろうか?」と…(笑)
何名かの職人さんにも試してもらいましたが、
実際に型紙どおり組めない方も居ました。
そんな中、うち(=万双)の一番の親方さんが
「意地でも作る」って、組み上げてくれた大切な商品なんです。
|「万双」における 「ダレスバッグ」
企画をはじめてから、
店頭販売をはじめるまでには、3年もの月日がかかりました。
「万双」の歴史の中では一、二を争うくらい
生みの苦しみが大きい商品だったんだと感じます。
ゆえにブランドにとっても、
象徴的なモデルになっているなとも思うんですよね。
これがひとつあることによって、
他のバッグへ技術の落とし込みができましたし、
ある種ブランドの指針にもなったので。
「万双」を語る上で欠かせない、顔の商品だなって思います。
|北山さんご自身が愛用している「万双」のアイテム
(製品名をクリックすると、製品ページにアクセスできます。)
このバックパックですね。
2016年末くらいから使い始めたので、
今(取材当時:2021年6月末 時点)で5年半を過ぎたくらいかな。
皮革メーカーさんをはじめ、
モノづくりの現場を自転車でまわることが多いので、重宝してます。
革質は言わずもがななんですが、金具にもこだわっていて。
もともとはドイツで走ってる車に使われていた、
「幌(ほろ)」を止めておくための部品をベースに、
日本国内で、それも真ちゅうで、この商品のためだけに特別に作った金具なんです。
|バックパックへの思い入れ
実は僕たちにとって、
このバックパックも挑戦のアイテムでした。
ビジネス向けの、革のハードな鞄をやっていると、
バックパックのような「カジュアルなアイテム」に
取り組むことに対して疑問が出てくるんですよね。
そんな中で悩み抜いた末、金具しかり、全体のバランスしかり、
「一般的なリュックサック」とはすこし違う、この商品を出すことにしました。
|革製品を長く使うことの楽しみ
「万双」が扱っているタンニンなめしの革は特にですが、
使うことによる味、エイジングを楽しむことができるのは大きいなと。
お手入れに使うクリーム、使い方や人となりによって、
経年変化の具合が異なってくるというのが、
革製品の魅力だし、長く使いたくなるところかなって思います。
|お手入れに使用するアイテム
(製品名をクリックすると、製品ページにアクセスできます。)